ゲド戦記III -最果ての島

 大賢者になったゲドが、魔法が衰退する兆候を知らせを受けて再び旅にでる。行く先々で、魔法を失い破滅した魔法使いや呪い師に会い心を痛める。しかし影響は魔術にとどまらずに、街は治安が悪化し人々は思考を失って死んだようになっていた。
 読んでいて不吉な兆候が拡大していることに気分が滅入りながら、ゲドたちが核心に近づいていくにつれて緊張が高まってくる。ゲドは精神的に円熟しているので、自分は未熟な従者の気持ちにシンクロしながら読んでいた。困難に何故2人だけで対処しなければならないのか?それが自分なのは何故か?自分への不信感とゲドへの不信感が広がり絶望、反発、無気力が次々に襲いかかり1度は屈してしまう。年をとったおかげで、こういった部分に共感できるようなった。
 ゲドも本質的には同じで、それに耐えるられる点が偉大だ。ようやく敵対する相手もわかり、ゲドが竜から場所を教えられた時、もう1つ何かを告げられた。それを聞いてゲドは顔面蒼白になるが、最果ての島に向かう。この時に自制していた魔法を存分に使って船を走らす。今が必要なときと言い訳するが、ゲドは自分の魔法を存分に味わったように思える。このシーンがとても印象的で格好いいなあ。
 さて、アースシーの世界における魔法は世界の物事に対応する言葉が存在する明快なものだ。物事の区別と言葉が1対1対応になっている。世界を認識できなくなるのにつれて言葉が失われていく、このあたりは言葉と世界が直接関係をもっているアースシ−の世界ならでは表現で、明瞭で美しい。その為か言葉が世界へ作用するかとか、辺境にいくと言葉が通じなくなるのかとか、そもそも何故、言葉と世界が対応しているのかとか気になって仕方ない。話のどこかで、これらを解く鍵が見つかるようだろうか?