ゲド戦記 帰還

 物語は英雄譚から反転して、その後の力を現実に移り変わる。再びテナーが話の中心になりゲドを眺める。テナーは巫女の立場から自分を取り戻すために逃れて一人の女性として生きてきた。僕なんかが見ると、自分の出身の違いを感じさせないように地域に溶け込み、農場をもち子供を成長させて立派な生き方だ。しかしテナーは、成功を感じながら女性という立場に自分を反映されられていないと考えている。ゲドの社会的な自分を失った姿を語るにはふさわしい人物だろう。

 魔法を失い生き方を失ったゲドは、一人になれる場所をさがす。その姿が痛々しい。ゲドは偉大な魔法使いである一方で、一般的な人生を知らないあられな男だった。テナーはゲドを世話するうちに、ゲドと自分がどのように生きてきたかを考える。自分とは何か女とは何か、聡明な彼女でも説明できない。しかし、自分がゲドに変わらず惹かれる事を認め、再度生き方を変えようと決断する。自分という存在を言葉や理性でなく生きることで証明し、これからの人生において戦うことを受け入れたのだろうか。さすがゲド、この期待にキッチリ答えて男を見せる。帰還のタイトルにふさわしいエンディングだった。