薔薇のマリア −つぼみのコロナ

薔薇のマリアを読んだ。これは面白い。文章にスピード、力強さがあって、それは主人公のレニィの魅力から出ている。育ちの複雑さにもかかわらず実直な性格で16歳の年相応の経験しか持たない。しかし、状況判断の早さ、決断力、タフネスさが並みでない、行動に躍動感があり力強く。精神的に安定していて思い切りがよい。特に剣舞のシーンは見栄えがする。作者の文が勢いだけでなく意外と細かい。ちょと面白いのが、コロナの剣の長さに対する描写で、器用なマリアローズは1m15cmと目測するのに対して、レニィは1mちょっとと大雑把になっている。レニィの剣技は当たり負けしないようにぶつかっていくタイプなので、自分よりはるかに力のあるオークに対してひるみ、すぐに気力を取り戻すシーンは驚嘆する。

脱出とはいえ、初めての旅のなかで戦いや尊敬できる人間とも出会い成長してゆく様は読んでいて気持ちよい。腐敗した社会や縛りに固定されたかつての街を振り切る姿は勇ましい。しかしキオに対する思いだけは消せない。レニィの尊敬する高潔な精神を持ち才能豊かだったキオが、なぜ生き残ることを優先させなかった事に怒りを持つ。キオの死、旅での経験が彼を鍛えて独自の生死観が形成される。最後の最後まで何が起きるから解らないから生きるのだという信念が、偶然で助けたコロナを面倒見ることに繋がったのだろう。その信念があるから強く、人を助ける事ができる、なかなかに格好良い。

追記:なかなか面白かったので、薔薇のマリア本編も読んでしまった。ライトノベルらしいノリのよい人物が魅力的。それ以上に面白いのは設定の細かさだろう。ファンタジーの世界では、その世界の歴史というのも魅力の1つだけど、主人公達が意識しない現在までつながる歴史、そこから派生した無統治国家という奇妙な国など非常におもしろい。魔法使いたちや古代からの生き残りたちが様式美にこだわる様は、ファイブスターに通ずるものがある。