ゲド戦記外伝

 アースシー世界の過去、些細な出来事など本編には書かれなかった事だが、物語とかかわりがない分自由に書かれている気がする。カワウソはゲド戦記には珍しく恋の話が直接かかれていて新鮮だった。内海の漁師のときにも感じたが、ルグィンって、こういった素直な感情を書くのが上手い。意外に感じながらも、このシーングッとくる。おかげで、暗いだけの話にならなかった。
 この話では混乱期にあたる時期の魔術師以前にあたる古い時代のアースシー世界が見られてよかった。ゲド戦記の世界の価値観がどのように組み立てられていったか、それが一面的な見方に過ぎなったことをわかり改めて愕然とした。それでも秩序のなく、多くの人間が虐げられる世界よりはマシだ。混乱期から、力のある人間たちが組織と規律を作っていく過程で男性優位の価値観を作ったとしても悪いものでなかったと思う。しかし、この体制は変わっていく必要があるんだろう。
「黒真珠」も良かった。力を持ちながらも魔術師にならなかった男の話。悩んだすえに何を選ぶか?選ぶ時期が間に合うのかという事を考えてしまった。あぁ、だから時間を戻り過去をやり直せた内海の漁師を思い出したのか。黒真珠では主人公のダイヤモンドがギリギリの時期に選択できて良かったと思う。一生の中で何かを達成しようとすると、多くのものを捨てなければならないのはしかたない。でも1つに集中しなけないと思い込んだり、一般にそう思われているだけ部分があるだろう。黒真珠の話は、選択を失敗してしまった残念な話でもある。自分にとって重要な幾つかの物事を本当に捨てる以外にないのか、もっと試すことができたのかもしれない。